#04 早期発見・治療で一人でも多くの命を助ける ― PET検査の先駆者が考える「検査」の意義
岩田 宏
偕行会グループは常に「真に患者のための医療」を考え、最先端の技術を取り入れてきました。日本で初めてPET-CTをがんの臨床検査に取り入れたのも取り組みのひとつです。グループの画像診断及び健診部門、医療法人名古屋放射線診断財団の理事長・岩田宏からみたPET普及の道のりと医療におけPET検査の意義とは?
日本初!PET-CTを臨床検査に導入。最先端技術でがんの早期発見に貢献
かつては不治の病と考えられていたがん。近年では、診断技術や治療技術の発展により”治る病”となりつつあります。
治癒の可能性を高めるために何よりも大切なのは早期発見・早期治療です。偕行会グループでは、がんや脳疾患・心疾患等の早期発見を可能にするために、常に最先端の医療機器を導入するとともに、読影等診断技術の向上にも努めています。
がんの早期発見、治療方針の決定において有効な検査のひとつが、PET-CTを使った検査です。
PET-CTとは、PETとCTの画像をfusion(フュージョン)することができる機器です。PETの性質上、PET単独の結果でがんの有無や詳細な場所を断定することは難しいですが、CT画像と同時に撮影することで、疑わしい部位の形や場所等をよりはっきり把握することが可能です。
なかでもがん検査に使用されるPETは薬剤の名前を頭につけて「FDG PET-CT検査」と呼ばれます(以下、本ストーリーでは特に説明ない場合は、PET-CTは「FDG PET-CT」を示す)。
PET-CT検査は、がんの悪性度の診断や転移・再発の診断、治療効果の判定等に有用性が高い検査として、医療現場での検査やがん検診等に活用されています。
偕行会グループのPET施設、名古屋放射線診断クリニックの開設は2001年11月のことです。まずはPET単独機を導入し、2004年には、日本で初めてPET-CTを臨床検査に導入しました。
今でこそPET施設は全国に350以上を数えますが、当時は30にも満たず、大学や研究所で研究用に使用されていることがほとんど。なかでも臨床検査でのPET使用の多くは、いくつかの公立施設で先進医療として使用されていました。
一方、米国では、がん転移の探索等、PETを臨床で取り入れる例が増えはじめていました。これからのがん検査は、PETが重要な役割を担うことになる――未来を見越した選択でした。
岩田 「当時は全国的にも例を見ないし、イニシャルコストも非常に大きなもので、リスクを不安視する声もあったようです。しかし、『患者様のためになることなら、コストや労力は惜しまない』というのが、当グループ会長の川原弘久の考え。その考えに沿った決断が正しかったというのは、今の我々の実績にあらわれています」
2008年1月には、東名古屋画像診断クリニックを開設。愛知県病院事業庁によるPET施設の公募に応募したもので、他院との競合の末に当グループが選ばれました。
両施設で、保険診療・健診合わせて累計100,000件(2015年6月時点)を超える実績があり、国内トップクラスのPET 画像診断センターとして、多くの医療機関や患者様から信頼をいただいています。
理事長みずから行脚してPET検査の重要性を啓発
岩田はもともと、外科医としてキャリアを積んできた人物。医大を卒業して9年間、外科医として勤務し、1993年、偕行会名古屋共立病院に入職しました。
治療技術の向上や、患者様のQOL(生活の質)を高めるために、旧来にとらわれず新しい手法をどんどん取り入れていこうという姿勢、そして将来の有用性を見極める先見の明――偕行会グループ会長・川原の『患者様のためになることなら、コストや労力は惜しまない』という考えに岩田は感銘を受け、みずからも積極的に新しい挑戦に取り組んでいくようになりました。
たとえば、従来は1泊2日の入院手術を行っていた胆石やヘルニアの日帰り手術を、日本で初めて入院無しの外来手術で実施したのは、岩田たちのチームです。
2001年には、同病院副院長に就任。同じ年にPET施設である名古屋放射線診断クリニックが開設しました。岩田は2003年ごろから、クリニックの運営に携わるようになり、2005年に名古屋放射線診断財団理事長に就任。
しかし、就任した当時の日本は、いわば“PET黎明期”……。PET検査の有用性を広報することが最も大きな難所でした。
そこで岩田はみずから、各地を行脚。ときには講演会で、またときには経営者が集まる会食の席で膝をつきあわせて、いかにPET検査が重要であるかを、丁寧に説明していきました。
岩田 「つい仕事が第一、自分の体が後回しになってしまう方も少なくありません。でもそれは逆ですよね。元気だから仕事が回せるわけですから。PETを含めた健診をしっかり受けていただくことの大切さを、ゼロからお伝えしていきました」
地道な啓発活動が実をむすび、PETを含めた健診は徐々に普及していきました。実際に、健診を受けていただいた方のなかから、すい臓がんや肺がんの中でも早期発見が難しいとされる種類のがんを発見し、治癒に結びつけることができた例も出ています。
岩田 「私は医師ですから、一番の望みは、ひとりでも多くの命を助けること。私がお話をして健診を受けていただいた方にがんが見つかって治癒したというのが何よりの成果です。何人かは治癒してからも毎年、PET健診を受けてくださっています。ご家族の方と一緒に受診してくださることもあって、嬉しい限りですね」
PETはエースだがジョーカーではない ― 総合的な健診で見落としをゼロに
PET-CTによるがん検査は、全身を一度に調べることができ、小さながんや予想外のがんの発見に威力を発揮する点で、非常に有用です。
しかし、名古屋放射線診断財団の前理事長・川原勝彦は、「PETはエースではあるがジョーカーではない」という独特の言い回しで、PETの真の意義を提唱していました。
がんは自覚症状なく進行していくのがふつうです。だからこそ、がん検診を受けることが、がんを早期に発見するきわめて重要な手段となります。
がんを見つけるための検査には、X線撮影やMRI、CT、血液検査、細胞検査等さまざまな方法があります。PET以外の検査では、がんの発見率は約80%。PETは、そこで見つけられなかった残り20%のがんを発見する確率を、少しでも高めていくための手段だといえるでしょう。
PET普及の過程においては、まるでPETが100%がんを見つけられる夢の診断方法であるかのようにとらえられていたこともありました。それを戒める意味で、川原勝彦は「すぐれた方法(エース)ではあるが、何でもありのオールマイティとしての『ジョーカー』ではないと説いていたのです。
岩田 「がんを見つける検査方法には、それぞれ得意な分野、苦手な分野があるんです。PETはすべてのがんを見つけられる方法ではありませんが、それまでCT等では見逃してしまっていたがんを見つけられる可能性が高まります。そこにPETの意義がある」
東名古屋画像診断クリニックでは、PET検査を含めたトータルのがん健診を「セレブ健診」として実施しています。そこでは、PET-CTのみの健診は行いません。
PET-CTだけでなく、被ばく量の少ないCTや、検査部位や目的よって使い分ける2種類のMRI、痛みなく乳がん検査が受けられる乳房専用PET等、最新医療設備を揃え、信頼性の高いがん健診を実現しています。
認知症の早期診断等、PET検査のさらなる可能性を信じ追求を
2017年現在、クリニック開設から16年が経ち、全国350以上の施設でPETが導入されています。
岩田は、PET施設の先駆けとして、PETの普及は患者様の利益になる良い流れだと感じるとともに、検査のクオリティにかけては、他の追随を許さないレベルを保ち続けていると自負しています。
岩田 「当クリニックのPET検査がとくに評価されている点は、画像がきれいであることだと考えています。ある部位をふつうなら1分半~2分で撮影するところを、私たちは3分かけている。コストがかかりますが、診断精度を高めるほうが優先ですから。その画像を診断するのも、放射線診断専門医と健診担当医のダブルチェック体制をとっています。
健診後、再検査や治療が必要と診断された場合は、偕行会グループの各病院、あるいは他院の専門医を紹介する等、速やかに手配ができるよう万全のフォローアップ体制を整えました。これもまた、受診されるかたの安心を高める要因のひとつとなっていると思っています」
また、PETはがん検診のみならず、他のさまざまな病気の診断への応用が期待され、実用化に向けた研究が進んでいます。
PETでは、あらかじめ印となるような薬剤を注入し、その動きを撮影する検査をします。その薬剤を新しく開発することで、さまざまな病気の診断に応用可能。がん(FDG-PET検査)以外にも、脳循環代謝を調べる「O(オー)ガスPET検査」、心臓の循環を調べる「アンモニアPET検査」等が偕行会グループを含めいろいろな病院で行われています。
将来に向け岩田が今注目しているのは、認知症診断へのPETの応用です。4人に1人が認知症になるといわれるいま、認知症の根本的な治療薬や予防薬はありませんが、いずれ開発されるでしょう。そうなると早期発見技術は、これまで以上に重要になってきます。
認知症PETのための薬剤は、すでに開発されているものもありますが、まだ実用段階でありません。
岩田 「治療の技術も進んでいますから、早期発見されれば良い治療法もあるんです。でも発見が遅くなれば、どんなに良い治療法でも対応できなくなる。だから私は、早期発見の技術であるPETの品質向上や新たな応用に全力で取り組んでいます」
常に「患者様のためになる治療とは何か?偕行会グループにしかできないことは何か?」と考え、先を見据えている岩田。ひとりでも多くの患者様の命を助け、健康に暮らすお手伝いをするために、PETの可能性を信じ、追求しています。
取材日 2017.6 Text by PR Table